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人類を堕落させる飯の話

Sato Taichi

このエントリーは pyspa Advent Calendar 2016 の 13 日目の記事です。昨日は @ymotongpoo のエントリでした。

@ymotongpoo は筋肉を作る話をしていたが、ここでは筋肉を溶かす話をする。半年の訓練が一週間で全部無に還るような類の話だ。

はじめに#

現代人は突き詰めると塩と油に脳をやられている。

現代人が短絡的に喜ぶ食事を考えた時、塩と油の不快感を感じさせずに大量摂取させることが出来る料理が幸福感をおおむね最大化する(要出典)。

塩と油を効率よく摂取させるにあたって、様々な料理が考えられるが、今日は家庭で簡単に作れる邪悪な食事について紹介したい。

僕が考える最大限に邪悪で、作成者の手間が少ない調理とはポテトサラダ(ポテサラ)である。

世間では男の胃袋を握る手段として「肉じゃが」が推奨されるが、同じイモ料理として僕は「ポテサラ」を推したい。 何の気なしに家飲みで食ったあのポテサラをもう一度食いたいと思わせれば、胃袋を握ったとみなせるだろう。

ポテサラが嫌いな人間は少ない。少なくとも、その組成について正しい理解が無い人間がポテサラを嫌っている事はない(要出典) 。

基本#

まず、ポテサラの基本的な調理方法を確認しておこう。尚、ここでいうイモとはジャガイモである。サツマイモや里芋ではない。 ついでに言うなら、ジャガイモは長細くて綺麗な形をしたメークイン系よりも、ゴツゴツとして丸い男爵イモ系の方がポテサラの食材として適している。

  • 洗って皮を剥いたイモを十分なお湯で塩ゆでにする
  • イモが茹で上がったらお湯を全部捨てた上で、鍋を加熱して水分を飛ばす
  • イモを潰しながらマヨネーズを混ぜる

最もプリミティブなポテサラの調理方法はこれだけである。 ここでいうマヨネーズとは、おおむね塩と油と酢と化学調味料、主にアミノ酸の混合物である。

話は脱線するがマヨネーズは、人類が快楽を感じる要素を非常に多く含む調味料なので、なんにでもマヨネーズをかけてしまうような中毒症状がみられうる極めて邪悪な調味料である。つまり、マヨネーズは凄く旨いので適正な距離感をもって付き合うべきだ。

もし、これだけで満足のいく味に出来るのであれば、あなたは味が全く分からないか、極めて高度な調理技術を持つ人間である。つまり、これだけではおいしいポテサラにはならない。大変申し訳ない。基礎は大事だが、それだけで事を為せるわけではないのだ。

味の輪郭#

所で、砂糖やでんぷん、油と言った食材は味をぼんやりさせる効果がある。一般にぼんやりとした輪郭の味を好む人間は少ない。

これに対して、塩味や辛味は味を際立たせる効果がある。甘味の足りないスイカに塩を振ると、甘みを強く感じる事ができるという話を聞いた事はないだろうか?無ければ、是非一度試してみてほしい(現実的には塩味によって際立つ甘みと、そうでない甘みがある)。

話を戻すと、マヨネーズを十分に混ぜ込んだ茹でイモの味に不足感がある場合、どのような調味料を足せば良いのだろうか? 答えは清涼感のある辛味を足すとよい。清涼感とは十分に香りがあり、後味として残りづらい辛味の事である。 要は西洋からしや胡椒を足せばよい。清涼感という意味では、酸味を足すのも悪くない。ただ、マヨネーズは酸味も一定以上提供してくれる。

この知識によって改善したポテサラの手順はこうなる。

  • 洗って皮を剥いたイモを十分なお湯で塩ゆでにする
  • イモが茹で上がったらお湯を全部捨てた上で、鍋を加熱して水分を飛ばす
  • イモを潰してマヨネーズを混ぜる
  • 練りからしと胡椒を適宜混ぜる

胡椒は見た目を気にしないなら黒コショウの方が断然旨いが、綺麗な見た目にするなら白コショウがよい。 料理は見た目も味の一部であるので、見た目を重視すること自体は尊重されるべきである。

これが、最低限のポテサラ。ボトムラインポテサラである。

一歩先へ#

ボトムラインポテサラに中毒性はない。何日か経過した後に思い出して、もう一度食いたいと思うような味ではないのだ。

一般的なポテサラには、イモ以外に以下のような食材を追加することが多い。

  • 塩を振って水抜きしたみじん切りの玉ねぎやキュウリ(甘味と食感を改善)
  • 軽く茹でたニンジン(見た目と栄養を改善)
  • ハムやカニカマボコ(見た目と味を改善)

ところが、これらを追加したところでポテサラの邪悪さが深まることはない。幸福な家庭の味である。

僕が求めているのは、ある種の飲み屋で突き出しとして提供される邪悪なポテサラである。 よく分からないが後を引く味で、一杯目の酒を飲みながらペロっと食べてしまうあのポテサラは、どうやって作るのだろうか?

一般的なポテサラには使われないが、邪悪なポテサラには使われる食材がある。それは、ニンニクである。

イモを茹でる際に、外側の堅い部分だけを剥いたニンニクを一緒に茹でるのだ。 加熱したニンニクは、特有の辛味が無くなり、どちらかというと甘みがあるのだが、特有の匂いは残る。 加熱したニンニクの匂いは人々を熱狂させる。このプリミティブな熱狂は周囲に対する格別の配慮を必要とする程だ。 はっきり言っておく、自分が味わっていないニンニクの匂いは極めて不快だが、自分が食ったニンニクの匂いは最高だ。

ちなみに、ペペロンチーノはニンニクと唐辛子とオリーブオイルを塩味の強いゆで汁で乳化させるという、人類のプリミティブな欲求を直接的に満たす要素だけで構成されたパスタである。

これらの知識によってポテサラのレシピを改善するとこうなる。

  • 洗って皮を剥いたイモとニンニクを十分なお湯で塩ゆでにする
  • イモが茹で上がったらお湯を全部捨てた上で、鍋を加熱して水分を飛ばす
  • イモとニンニクを潰しながらマヨネーズを混ぜる
  • 練りからしと胡椒を適宜混ぜる

これが、平和な家庭の味を逸脱した邪悪な味わいのイビルポテサラである。

イビルポテサラは素晴らしい。

しかし、大量に作ってみると分かるが虚しさがある。何が言いたいかと言うとマヨネーズの味が余りに平たいのだ。 つまり、マヨネーズは強い快楽がある調味料であるが故に耐性が付きやすい調味料でもあるのだ。有り体に言えば飽きる。 イビルポテサラを何度か食べると気が付いてしまう、これはマヨネーズを飲んでも良いのではないか?

僕は断じてマヨラーではないし、マヨネーズに安住する気は無い。安住し易い調味料と言えば、クレイジーソルトもある。

更なる堕落へ#

ここからは、マヨネーズとの適正な距離感を保つべくイビルポテサラの味を改善していきたい。 ポテサラのレシピからマヨネーズを完全に無くすのは難しい。しかし、マヨネーズを減らしつつポテサラの味を強化することは出来ないだろうか?

そこで、代替品として考えられる調味料はアンチョビである。アンチョビはカタクチイワシを塩とオイルにつけて発酵させた調味料である。 つまり、旨味と塩味と油で構成されるスーパー調味料がアンチョビなのだ。 日本人が何にでも醤油を使うように、ヨーロッパ系の食事では何にでもアンチョビを使っていると言ったら言い過ぎかもしれないが、そういうレベルの食材である。

マヨネーズを減らしアンチョビペーストを加えることで、ポテサラは一段上の邪悪さを獲得するだろう。

この知識を反映したポテサラの手順は以下のようになる。

  • 洗って皮を剥いたイモとニンニクを十分なお湯で塩ゆでにする
  • イモを茹でながらアンチョビをペースト状にする
  • イモが茹で上がったらお湯を全部捨てた上で、鍋を加熱して水分を飛ばす
  • イモとニンニクを潰しながらアンチョビペーストを混ぜる
  • イモとニンニクとアンチョビが混ざったら味見しながらマヨネーズを足して混ぜる
  • 練りからしと胡椒を適宜混ぜる

アンチョビはイモが温かい状態のうちに混ぜると味が広がり易い。一方でマヨネーズはある程度冷めてから混ぜてもよい。 アンチョビは塩味が非常に強いものも多いので先に混ぜて、後でマヨネーズを使って味を整えるという意味もある。

これが、邪悪な味わいを更に改善し人類を堕落させるギルティポテサラである。 ギルティポテサラは、飲酒を伴わない食事には合わないと考えてよい。ワインやビール、ウイスキーなどの洋酒と併せると簡単に堕落できるだろう。

まとめ#

このギルティポテサラは、ある種のフレームワークでありガイドラインとなるものだ。 これに食材を適宜追加していく事で、よりオリジナリティのあるポテサラを作ることができるだろう。 既に挙げたような玉ねぎやキュウリ、ニンジン、肉類を加えるのも悪くないが、例えば乾煎りして細かく砕いたクルミなどはどうだろうか?生クリームのように直接的な食材を使うのも極めて邪悪だ。

これを読んだあなたが新しいポテサラの境地を開き、より多様性のある食生活に至ることを願って結びとする。