デスマサバイバルガイド

1. はじめに

僕がよく知っている業界はSIだが、これに限らずソフトウェア開発の現場には、過酷な現場…いわゆるデスマーチが多いと言われている。

一方で、そのような過酷な現場を渡り歩き生き残ることでしか、良いプログラマになる方法は無いと言った考え方もある。僕の個人的な経験則からすると、この理屈はある程度合っていると思う反面で、合っていて欲しくないという気持ちは強い。

高い技術力をもつプログラマの全てがデスマ職人という訳ではない。

デスマーチに巻き込まれたと気が付いた時の妥当で基本的な戦術は撤退戦だ。何か理由をつけて逃げ出すのが望ましい。つまり、休職なり退職なり、異動なりして、その職場から離れるのが望ましい、出社拒否も良い。しかしながら、何か様々な理由があって、そこから逃げ出せないことはあるだろう。

僕はもう長い事デスマーチに関わることなく生きられているが、徐々に忘れつつあるので、若いころに獲得したデスマーチを生き残る方法論について記録しておく。

最初に断っておくが、これから経験則に基づく医学的根拠のない知見を披露する。あなたが、それに基づいて行動した結果について僕は一切の責任を負わない。

2. デスマーチとは何か

ソフトウェア開発におけるデスマーチとは、おおむね終わる見込みが無いのに、様々な思惑がかみ合うことで何故か資金が投入され続けるプロジェクトのことである。

資金を獲得する際には、比較的過酷な努力目標が設定されるため、そこで稼働する労働者に対して高負荷を与えることが多い。

本稿ではデスマーチ(以後、デスマ)を生き残る技術について説明したいので、デスマが何であるかについては36協定の限度時間を参照しておく。基準が厳しすぎると感じるかもしれないが、時間外労働をさせる場合の基準時間に抵触するプロジェクト、つまり一ケ月で時間外労働が45時間を超えるプロジェクトは全てデスマであると考えるべきだ。

あなたが若かったり、経験豊富であったり、プロジェクトの人間関係が良好であったりと、様々な副次的な要件が満たされることによって、そのようなプロジェクトにいるにも関わらず特に危険を感じていないかもしれないが、それは大変幸運なことだと考えるべきである。

3. 病院を確認する

デスマに巻き込まれたかもしれないと感じたら、あなたが最初にやるべきことは病院を確認することである。

勤務先と自宅のそれぞれから最も近い病院の住所と電話番号をスマホの電話帳に登録しよう。 最低限、内科があればいい。消化器科や脳神経外科がある病院があるならより望ましい。 自宅にいる際に倒れた状態からインターネットで病院を探すことはできないだろうが、スマホを操作して電話するくらいはできるかもしれない。その差が生死を分けることもある。

デスマにいる間に虫歯になることは多いので、歯医者も確認しよう。 半年以内に歯科検診を受けていないなら、とりあえず歯医者には行くべきだ。

腹痛や頭痛などの痛みや、睡眠障害を感じたら即座に病院へ行くことだ。薬局で買える鎮痛剤や睡眠導入剤を安易に使ってはいけない。

4. 栄養ドリンクの飲み方

最近はコンビニや薬局などに栄養ドリンクのようなものが大量に並んでいる。具体的な商品名は避けるが、羽が生えるだの、なんだのと色々書いてある。まず、こういうものを飲むのをやめよう。

人間はおおむね、砂糖とカフェインを一定量以上摂取するとテンションが上がるように出来ている。 よく分からないが効きそうな薬品名が書いてあるかもしれないが、コンビニで買えるようなものはおおむね砂糖とカフェインが大量に入っているので、元気になると考えるべきだ。

まず、覚えておいて欲しいのだが、人間は体内の水分が3パーセント程度失われるだけで眠くなる。つまり、軽度な眠気への対応策としては水を飲むべきだ。いきなりコーヒーだのお茶だのカフェインが入ったものを飲まない方が良い。

4.1. ポカリスエット

テンションを上げられる砂糖が多く含まれており、水分を簡単に補給できて簡単に手に入る飲み物がある。

ポカリスエットだ。栄養ドリンクの類を飲み始める前に、まずはポカリスエットを飲んで欲しい。これで足りなくなってきたと感じたら、次の段階だ。

4.2. ヘルシア緑茶

砂糖の次はカフェインだ。カフェインが大量に含まれており砂糖が余り含まれていない飲み物がある。

ヘルシア緑茶だ。ポカリスエットで水分と砂糖を取って足りないようならカフェインを追加する。 気を付けて欲しいのは、カフェインは刺激物なので胃にくる。一時期、眠くならないからと言ってヘルシア緑茶をデカいボトルで毎日ガブ飲みしていたことがあるが、結果的に胃に穴が開いて苦しむことになった。

4.3. リポビタンD

ポカリとヘルシアをがぶ飲みする生活に慣れてきただろうか。しかし、プロジェクトは終わらず相変わらず負荷は高いままだ。そうなったとき、初めて値段が安い栄養ドリンクに手を出そう。 茶色のガラス瓶に入ってないようなのは、基本的に光で分解するようなナイーブなものは含まれてないので、全部雰囲気ドリンクである。

効果が高いとは言えないが、それなりにまともで値段が安い栄養ドリンクの代表例がリポビタンDだ。

シリーズには色々あるが、最初は兎に角安価なものを買うこと。気合いを入れて高価なものをいきなり買うのは避けるべきだ。体が不足を感じるまでは、ドリンクの価格を上げるべきではない。

4.4. ユンケル黄帝液

空いたリポDがディスプレイの下辺りにズラっと並ぶ姿がアタリマエみたいな雰囲気の生活になってきた頃には、もう効かなくなっているだろう。恐らく一日に何本もリポDを飲んでいる筈だ。

そうなってしまったら、次のドリンクに手を出すしかない。次は、ユンケル黄帝液だ。

薬局で一際輝くパッケージに入っており、様々な商品がある上に、結構値段の高いアレがユンケル黄帝液だ。

これも、飲み方はリポDと同じだ。とにかく安いやつから飲んでいくべきだ。いきなり高価なものに手を出すと、効きすぎて鼻血を大量出血することになる。デスマでは粘膜が弱くなるので、強い栄養ドリンクをいきなり飲むと、その効果を出血によって失うことになる。そういうことは望ましくない。

まぁ、栄養ドリンクをガブ飲みしながら働いている状況が、そもそも望ましくないのは言うまでもないが。

4.5. 栄養ドリンクと睡眠の関係

きちんと睡眠するには、体力を少々残しておかなければならない。老人が早起きなのは体力が無いので寝続けられないのではないかと思う。

プロジェクトが佳境を迎え、うっかり30時間とか長時間にわたって稼働した結果、疲労の蓄積がピークを迎えると、疲れすぎて眠れなくなる。3時間睡眠を何週間も続けていても同様だ。

重要なことなので繰り返しておく、人間は疲れすぎると眠れなくなる。

栄養ドリンクを飲んで体力を一時的に回復すると、急激な眠気に襲われる可能性がある。理想を言えば、眠いなら寝てしまった方が良いのだが、そうも言ってられない状況だってあるだろう。

自分の疲労がピークを越えており、うっかり間違って16時間とか眠ってしまうことを避けたいなら、栄養ドリンクのランクを下げることを考慮にいれよう。起きて働き続けられる程度にのみ回復するのだ。

5. 睡眠について

長期間に渡るデスマを生き残るには、睡眠の技術は欠かせない。

ショートスリーパーを自称し2時間や3時間程度の睡眠でも十分に活動できる等と強がるものを沢山見てきたが、そういう人間はあっという間に様子がおかしくなる。 本人が単におかしくなって退場するだけなら良いが、睡眠不足でおかしな事になっている人間がプロジェクトの中に居座ると、周りの人間に悪影響を及ぼす。

睡眠不足な人間は言動や行動が極端になるので、極限状態では発言力を行使し易いのだ。そうやって行使された様々なことは、当然ながらプロジェクトに悪い影響を与える。

そうならないよう、毎日最低でも6時間程度の睡眠時間を確保しよう。

5.1. 椅子寝

デスマと言えば椅子寝だ。何故、椅子で寝るのだろうか?

まず、床で寝るのは不衛生だからだ。外の道路や、トイレの中を歩き回った靴で踏みしめた床が衛生的である筈がない。次に、床は固いので上手く眠れないからだ。カーペットが敷いてあったところで、それは変わらない。最後に、地面で寝ると体が冷えすぎるからだ。体が冷えると眠れないだけでなく、風邪をひきやすくなる。

長時間の稼働では、免疫力が低下するので風邪をひきやすくなる。プロジェクトルーム内で風邪などの感染症を引き起こした人間が発生すると、連鎖的に人が倒れる。 忙しいからデスマなのに、病人が大量発生すれば状況は当然悪化するだろう。

椅子を並べて寝る際に気を付けるのは、背中の関節、特に腰に無理がかからない状態を探そう。 椅子寝をするなら、体を変な風に固定したりするのはやめよう。非常に危ない。背面部分に足を通したりすると、寝返りをうってしまった時に、上手く床に落ちられず大けがをすることになる。

寝る際には全身が床とおおむね平行になるようにすること。机の上に突っ伏して寝ていいのは15分までだ。 それ以上は、疲れが取れたりはしないし、腰や肩に強い負担がかかるので望ましくない。

加えて、靴や靴下はちゃんと脱いで寝た方が疲れがとれる。足を圧迫しないほうがいい。

最後に、足首の高さは心臓よりも高くなるように調整しよう。漫画の雑誌などを3冊程度積むとよい。 下半身の血液が寝ている間に上手く循環すると疲れが取れやすい。

5.2. 床寝

既に説明したが、床で寝るのは基本的に望ましくない。

しかし、寝やすいソファや椅子がないこともあるだろう。そうした場合、どうしても床で寝ざるをえないことはある。

床で寝るのならまずは、コンビニで段ボール箱をもらってこよう。サーバが梱包されていた段ボール箱でもいい。 畳一畳程度の空間に潰した段ボール箱を並べ、その上で寝る事だ。厚みが5cm程度になるのが望ましい。薄い段ボールなら、3~4枚重ねる必要があるかもしれない。 段ボール箱は、紙の中に空気の層があるので、体が冷えづらいし、床で直接寝るよりは衛生的にマシだ。

段ボール箱を敷いたうえで寝袋を使うなら、より良いだろう。

6. 体の衛生状態を確保しよう

ここまでは、家に帰らないことを前提に話をしてきたが、家に帰れるなら出来る限り帰ったほうが良い。

家に帰れるなら忘れずにやって欲しいことがある。

疲れていると家にたどり着くなり、布団に入って寝てしまいたいと思うだろうが、睡眠による回復の効率を最大化するなら、就寝前に歯を磨いて風呂に入るべきだ。

たった3分歯を磨き、30分風呂に入るだけでいい。

6.1. 歯を磨く

口腔内の衛生状態が悪化すると、風邪をひきやすくなるので、毎日歯を磨こう。

栄養ドリンクの類は、大体が酷い匂いがするので、それに慣れてしまわないためにもきちんと歯を磨くことは大切だ。

デスマで虫歯になったとしても、会社がそれを補填することは無いだろう。永久歯は虫歯になってしまえば、容易に失われるし、その治療費は高くつく。

普通の歯ブラシで磨いても良いが、疲れていると時間間隔がいい加減になるので、電動歯ブラシを使う方が良い。

僕のおススメ歯ブラシは、フィリップスのソニッケアーだ。

歯間ブラシとしては、ジェットウォッシャードルツを愛用している。

歯磨き粉は、刺激が少なく味が余りないものが好みなので、チェックアップスタンダードを使っている。

歯磨きが終わった後は、コンクールFで仕上げのうがいをする。

6.2. 風呂に入る

風呂に入るのは体や頭を洗うためだが、シャワーを浴びるだけでなく、しっかりと湯船に浸かるのが望ましい。

人間は体温が下がり始める時に、眠り易くなる。湯船に使って一時的に体温を上げると、簡単にその状況を作り出せる。

そして、就寝前に風呂に入るのは、スマホや液晶モニタの光から自分の目を遠ざけるという目的もある。強い光を見た直後に上手く眠るのは難しいので、風呂にはいることでそのインターバルを確保するのだ。 つまり、風呂上りにソシャゲをやったりメールをチェックしてはいけない。

7. 自宅の掃除をする

デスマの最中だとしても、1週間から一度、悪くても1か月に一度くらいは丸1日ないし2日休める日ができるだろう。

まずは、十分な睡眠を確保すべきだが、人間は熊などの冬眠できる哺乳類と違って寝溜めすることはできない。起きたらインターネットやテレビを見て時間を溶かすのではなく、掃除をしよう。

具体的には、水回りの掃除をすべきだ。水回りとは、トイレ、風呂、キッチンのことだ。

特にトイレと風呂は汚れやすいので、休みの日に掃除をする。これは、肉体的な意味での衛生状態を確保すると共に精神的な意味での衛生状態を確保する意味もある。

疲れ切って帰ってきた家のトイレが汚いと、メンタルは確実にすり減るからだ。少しくらい汚れていても平気な人間がいることは否定しないが、精神状態がおかしくなった人間の家の水回りは確実に不衛生だ。

8. まとめ

デスマーチを生き残るには、何にせよ肉体と精神の健康を維持することが肝要だ。

このような知識を使うことなく一生をまっとうできることが望ましいが、そうでないことはあるだろう。

どんな場所でも、ほんのちょっとしたボタンの掛け違いでデスマーチは突如として現れる。

読者の皆様が、そのような状況になっても正気を保ったまま、そこから逃げ出せることを祈っている。