ビジネスチャット初級編
はじめに
最近、様々な分野でチャットツールのビジネス利用が試行されていますね。 筆者の会社でも例に漏れず多くの部門が Slack を利用したり、Microsoft Teams の検証をしています。 筆者は 20 年近く様々なチャットツールを使ってきました。1:1 のチャットツールだけでなく、複数人で使うチャットツールも様々な状況で利用しています。 そもそもインターネットを利用する筆者の主たる目的の一つは確実にチャットです。 一方で、会社に本格的なチャットツールを導入する過程で分かってきたのは、多くの人は思ったよりチャットツールに慣れてない、ということです。
このエントリでは、最近 Slack や Teams のようなチャットツールを使い始めた組織に所属するみなさんに向けて、チャットツールをより快適に使うための考え方や Tips を紹介します。
ここで紹介する知識は、筆者からの提案であり何らかの理想やマナーではありません。 これらの知識の中には、あなたの考えや組織に合わないものが確実に含まれているでしょう。それらは単に無視して下さい。 もし、あなたのチーム内におけるルールや運用を見直すきっかけになるなら、それは大変素晴らしいことです。 筆者としては、このエントリを読んだ皆さんが、ここで提示した知識を自分なりに改良して利用して貰えれば良いと考えています。
全般的な使い方編
多要素認証(MFA)を有効化しよう
チャットツールは様々なレベルの情報を扱う場所です。あなたのアカウントをより強力に防護するため必ず多要素認証(MFA)を有効化しましょう。
Slack の場合、有償のワークスペースでは管理者が MFA をユーザに対して強制できますが、無償のワークスペースでは強制できません。 多くのユーザは強制されない限り MFA を有効化しない傾向にありますが、特に理由が無ければ有効化しましょう。
おすすめのアプリケーションはAuthyです。複数のスマホや PC で二要認証の鍵を共有しているので、一つくらいなら一時的に紛失しても対応できます。
定時の設定
退勤したら仕事用のチャットツールを見たり使ったりするのは基本的にやめましょう。 どこに居ようが、仕事用のチャットツールを見ているなら、それは労働時間とみなされるべきです。稼働時間をむやみに増やすのは、望ましくありません。 そのためには、定時を過ぎたら通知が来なくなるように設定するのが簡単です。
チャットを一切見ない時間を作ろう
チャットツールは、慣れてくると中毒のような状態になり易いものです。特に参加者が多く活気のあるチャットでは、常に誰かが発言しています。 そこで発信されるメッセージを全て出来るだけ早く確認しようとすると、それ以外のことが一切出来なくなってしまいます。 そうなる前に、チャットを見ない時間帯を自分で決めるのが良いでしょう。
8 時間拘束の仕事では、毎日合計して 2 ~ 3 時間はチャットを見ない時間を作ると仕事が捗りますよ。
情報のストックとフローという考え方
チャットツールは、流動的な対話を行うための場所です。チャットツールでの議論の結果は、別途保存した上で探し易い場所に議事録としてまとめ直した方がいいでしょう。 後からチャットの中身を時系列に追って、その内容を順次理解していくのは非常に大変な作業です。 議事録はその時いなかった人が分かり易いように書きましょう。
一番簡単な議事録の共有の仕方は、markdown などのテキストファイルで議事録を書いた上で、チャットツールにアップロードしてしまうことです。
コミュニケーション効率について
チャットツールによるコミュニケーションは、対面によるコミュニケーションに比べて効率のよい部分と悪い部分があります。
チャットツールは文字によるコミュニケーションツールなので、感情や雰囲気のような感情的な部分は伝わり辛いです。 語尾を工夫したり、リアクションアイコンや、画像を使うことである程度感情を伝えられますが、感情はあまり伝わらないものとしてやり取りした方が、トラブルの発生を未然に防げますし効率的です。
チャットツールを使うなら、対面によるコミュニケーションよりも、応答速度を少し遅めに見積もってやりとりする方がいいで しょう。 会議中や電話中に質問者側が、質問してその回答を聞く前に離席したり、他の会議に行くなどという事はありえませんが、チャットツールならそれができます。
メールマナー及びそれに類するものを排除しよう
電子メールが普及し、20 年近くが経過するなかで、マナーのようなものが広く普及しています。 例えば、「○○ さん」や「お世話になっております」、「以上、よろしくお願いします」など、情報として意味のない文章がメールの中には多く含まれています。 チャットツールを利用するなら、そのようなマナーを一旦全て無視してコミュニケーションしてみましょう。コミュニケーションの効率が大きく改善することを実感できるでしょう。 情報として意味の無い部分を欠く相手に対して失礼さを感じ、コミュニケーション効率を改善するより礼儀を重視したいのであれば、チャットツールを使うのは諦めてメールを使えばいいでしょう。 本当に効率よりも礼儀が大切なら、毎朝おろしたての墨を使って筆で手紙を手書きした方がよりよいでしょう。
本来、礼儀や礼節というものは不要な争いが起こる可能性を低減することで、効率よくコミュニケーションするための手段であって、目的ではありません。 本来の目的を逸脱し、それ自体が目的化したマナーの類 は極めて醜悪なものだと筆者は考えています。
お互い意味が無いと思いつつ、多くの人が受け取っても読み飛ばしている文字列を送付し合うことは、礼儀正しいと言えるのか今一度考え直してもいいんじゃないでしょうか?
リマインダーの使い方
Slack では / で始まるメッセージを投稿すると、他のユーザには見えない特別な命令として解釈されます。
Slack には、標準で特別な命令がいくつか用意されていますが、 /remind はそういったものの一つです。
メッセージの入力欄に /remind と入力すると基本的な使い方は表示されます。
そこでは表示されないが個人的に有用だと思っている例を紹介します。
平日の 1200 にリマインド
平日の 12 時になったら、自分にだけ Slack がリマインドしてきます。
/remind me "お昼休みです" at 12PM every weekday
終業時間をリマイン ド
平日の 17 時になったら、 #kintai チャンネルにリマインドメッセージが自動投稿されます。
自動投稿されるメッセージ内で @here となっているので Slack にログインしており、#kintai チャンネルにいる人全員に通知が飛びます。
/remind #kintai "@here そろそろ退勤時間です。日報を書きましょう。" at 1700PM every weekday
メッセージ編
ここからは、Slack を使ったメッセージのやりとりにおいて、筆者が気を付けていることを紹介していきます。
メッセージを小分けにする
長文のメッセージの中には、全体として賛同できるものの個別には同意できないとか、個別には同意できるが全体としては賛同できないといったことはよくあります。 合意形成のためには主張を部分に分けた方が、それぞれに対してより精密な議論ができます。 チャットを使った議論では、文章を過度に装飾したり論理を敢えて曖昧にするようなやり方は合致しません。
長文で何かを主張するのであれば、markdown 等の読み易い 形にまとめて配布する方がいいでしょう。 その場合には、ピクトグラムやダイアグラムなどの画像を適宜混ぜることで、読者がより理解し易い形にしましょう。
このようなことが出来るのは、Slack のワークスペース内において全てのメッセージを一意に特定できる ID が割当てられているからです。 Slack ではワークスペース内の全てのメッセージに対して一意になるような URL が付加されます。 その URL は、メッセージの右上にある「・・・」アイコンからクリップボードにコピーできます。

そのメッセージに言及する際に、自分のメッセージ内に URL を含めると、自分が書き込んだメッセージが表示される際に併せて、言及対象となるメッセージが表示されます。

また、個別のメッセージに対して返答できるスレッドという機能によって、個別具体的な議論を行えます。
Slack のチャンネル内でスレッドが多用されているなら、チャンネルを分けた方がいいかもしれませんよ。
メッセージをリマインドする
Slack ではメッセージが次々と流れていくので、メールのように敢えて未読にしておくことが難しいことが多いですよね。 依頼されたことや、明確に自分に対して問いかけがあった訳ではないものの、反応しておきたいものの、今すぐには書き込めないという事はよくあります。
そういう時はリマインド機能を使いましょう。リマインド機能はメッセージの右上にある「・・・」アイコンから設定できます。

リアクションを積極的に使おう
Slack を筆頭に最近のチャットツールには、簡単な応答を行うためのリアクションという機能が実装されています。 単純なお礼、同意や否定、賞賛などはメッセージとして書き込まずにリアクションすると気楽に応答できるようになります。
チャットツールで感情表現しようとするとコミュニケーションが煩雑になるのでオススメはしません。 しかし、常に感情を封じてコミュニケーションするというのも不健康な考え方ですので、リアクションで低コストに感情表現するのがいいでしょう。
ここでは、筆者がよく使っており、Slack に標準搭載されているリアクション アイコンを紹介します。 Slack にはリアクションアイコンを自分で作成して登録できるので、自分達のチームにあったリアクションアイコンを登録するとより愛着が湧きますよ。
肯定、賞賛、承認
これは、英語圏における thumbs-up というアイコンで肯定や賞賛、承認を表すものです。
ポジティブな反応は、コミュニケーションを円滑にする効果がありますので、積極的に使っています。
類似するものとして、お祝いの要素がより強い tada もあります。クラッカーを鳴らしているイメージですね。
自分には無い考え方や発想に対する賞賛をおこなう際には cool を筆者は使っています。「なるほど!」や、「一本取られた」みたいな使い方です。
同意を表す際には、 ok も使い易いアイコンです。文字として表現されているので、文脈を共有していない相手にも理解され易いのが良いですね。
否定、却下
ネガティブな反応をすることが、効果的な状況が少ないのであまり使いませんが、そういう時こそお互い精神に悪影響の少ない方法であるリアクションを使いましょう。
一方で、悲しみや辛さに同意することが、コミュニケーションを円滑にする状況もあるでしょう。そういう時に筆者は、cry や skull を使っています。
単純な否定や、同意できないことを表明する際には、 ng も ok と同じ理由で使い易いアイコンです。
確認済、完了済、チェック
メッセージに対して終了状態を表す際に使うのが check です。
リマインダーに check でリアクションを付けておくと状況を管理し易くなります。
発展的には、Slack に自分で書いたメッセージに check を付けていくことで TODO リストとして使えます。
相槌
オンラインコミュニケーションにおいては、相手が自分の書いたメッセージを読んでいるのかいないのかが重要な状況はあります。 特に連続してメッセージを送信している際には、誰も見ていないとしたら空回りしているような感じになってしまい辛いことがあります。
そういう風にならないよう、否定も肯定もしないけれどメッセージを見てはいることを相手に伝えるために、筆者は eyes アイコンをリアクションします。
LINE のように既読状況が自動的に管理されるツールは、便利ですが一方で圧迫感もあります。
筆者としては、仕事で使うチャットツールでは、自分に余裕がある時だけ能動的に既読をリアクションできる方がより使い易いなと感じています。
簡易アンケートの作り方
Slack のリアクションは、同一のリアクションを複数回付けられないので、チャンネル内にいる人に対して簡易的な選択式アンケートを取れます。
メッセージとして選択肢を提示した後に、メッセージを書き込んだ人が one、two、three、four、などのリアクションを付けてしまいます。
アンケートの参加者は用意されたリアクションを選択するだけで回答できます。
